ゆとり教育

 ゆとり教育は悪いと長らく言われてきました。教育内容が少なすぎる、と。しかし、その批判は実は大変的外れなものだったということを2つの側面から述べたいと思います。
 1つは、誤った報道がなされたという点です。例えば、現行の学習指導要領が発表されたあと、ある報道番組では「新指導要領では、円周率を3として教える」という内容の報道がなされました。しかし、実際の指導要領の文面には、「(前略) 実際に、幾つかの円について、直径と円周を測定し、どんな大きさの円についても、円周の直径に対する割合がおよそ3になっていることを見出せるようにする。(中略)円周率としては3.14を用いるが、円周や面積の見積りをするなど目的によっては3として処理していくことを取り扱うことにも配慮する必要がある。」と書かれており、円周率は3.14として教える、3は見積りの計算の際に用いる、という書き方で、円周率を3とするなどとは書かれていません。このような明らかな誤報道により、多くの国民に対して誤った学習指導要領批判を植えつける結果に至ったのです。
 もう1つは、ゆとり教育が目指したものと指導要領批判の観点は全く違うものであるから、きちんとした説明を出来なかった文部科学大臣以下文部科学省全体にも問題があるけれども、それ以上に批判対象に対する勉強を怠った報道関係者及びそのような報道に対して正しいメディアリテラシーというものがなく自分の意見を持つことが出来なかった多くの国民に問題があるのです。そもそも、ゆとり教育が目指したのは、文部科学省の言っていたような中途半端な教育方針ではありません。もともとのねらいというのは、PISAで最上位の得点を取り続けている北欧のような学校のスタイルを目指した内容です。これまでの日本の小学校では、徹底的な知識伝達と、それらの情報を元に自分で考えていくことの出来る一部の子どもを伸ばしていくという傾向がありました。しかし、それは本来教育が目指した姿とは乖離していました。本当は、一人ひとりの子どもが、達成したときの歓びを持って次の学習に対しても意欲を持って取り組んでいける姿というのが、教育の目指した姿だったのです。これを取り戻すために、内容を精選して深く思考することで、これまで以上に多くの子どもが学ぶ楽しみを得ることが出来るようにしよう、というのが現行の学習指導要領だったのです。それに対して、学習指導要領批判をしていた人というのは、「内容が少ないから学力が低下するんだ」という一点張りで、このような背景を考慮していないので、論点自体がずれてしまっていると言わざるを得ません。既にこのような学習スタイルを取り入れている北欧が学力が高くて、以前までの学習指導要領にしたがって学習を進めていた子ども達の学力が低いのは何故でしょうか。どちらのスタイルが良いといえるのでしょうか?